フエギア1833(以下フエギア)の香水に魅せられている方は、おそらく「普通ではない香り」を求めてやまないのだと想像します。
「普通ではない香り」を掘り下げると、以下のような塩梅です。
- ありきたりではない香り
- これまでに嗅いだことがない香り
- 他人とかぶらない香り
そんな香水ファンを魅了するフエギアの中にも、フレグランスの王道となるテーマを扱った作品がいくつか存在します。
今回、私が久しぶり単品レビューで紹介したいのは、フエギアのフアン・マヌエルという作品です。
個性的な作品が多いフエギアの中では見過ごされがちな、ローズを主役に添えた気高いフレグランスです。
フアン・マヌエルの香りは?
フアン・マヌエルの香りを一言で表現すると、みずみずしいローズにハッとさせられ、何度も吸い込みたくなるような凛とした香りです。
「これがローズ?」
今まで何度か試香していたのに、はじめてフアン・マヌエルに意識を向けた時の私は、この時のことをよく覚えています。
フアン・マヌエルが、これまでの歴史上のローズ系フレグランスとたった一本で対立しているかのように感じました。
そして、それ以降はこの香りが気になって仕方がなくなってしまいました。
香水の定石とも言えるローズでありながら、どのメゾンのローズとも異なるフエギアだけのローズ。そのローズは紛れもない真紅のバラです。
開き始めたばかりのみずみずしさの中に、強い意志を感じさせるようなローズの香りが堂々と立っているようです。
「俺を見ろよ」という芸能人的な感じでもなく、媚びるようなところも感じません。一人で堂々と、いえ、飄々と立っているクールなイメージを想像します。
みずみずしさを演出しているのは、おそらくピンクペッパーだと思うのですが…それだけではないはずです。一筋縄ではいかないのがフエギアの魅力ですから。
フローラル系のフレグランス全般が表現するはかなさや可憐さとは異なる、凛とした雰囲気には誰もがハッとさせられることでしょう。
パウダリックな香りはある?
フローラル系の中でも、特にローズのフレグランスと相性が良い、パウダリックなノートは微塵も感じられません。
私がフアン・マヌエルを気に入った点はここにもあるのかもしれません。
パウダリックな要素と、お花の香りそのものとを、私は分けて楽しみたいのです。なぜか一緒くたにされることが多いのですが、この2つに関しては分けてほしい、というのが私の好みです。
パウダリックな香りって?
パウダリックな香りというのは、おしろいのような香りであったり、時としては石鹸のような香りを指しています。
フアン・マヌエルの香りを一言でいうなら
このように、フアン・マヌエルには凛としたローズの立ち姿を表すようなクールさがあり、一言でいうとシンプルです。
シンプルであるがゆえに奥深い。
人によっては退屈かもしれない。
でも、私にとっては何度もまといたくなる作品です。
フアン・マヌエルの香りの構成
2020年8月時点のフエギア公式サイト(日本版)では、香りのメインファミリーにフローラルと記載があるものの、その中心にはローズだけが表記されています。
ちなみにスタッフさんには、ローズのほかにピンクペッパーとゼラニウムの香りも明かされていると教えてくれました。
※公式サイト上に記載はありません
フエギアは、従来のフレグランスのようなトップノート、ミドルノート、ラストノート、その後のドライダウン…といった香りのストーリー展開をしないところが特徴的です。
これに加えて、まとう人によって香りの出方が少しずつ異なるという、香りをさらに複雑にする要素を併せ持っています。
フアン・マヌエルをまとうと、肌の上に気高いローズが咲くようです。
数多くのローズが咲き乱れるバラ園にいるというよりも、一輪の真紅のバラがまとう人とともにいる…そんなイメージです。
フアン・マヌエルの持続時間は?
フエギアのフレグランスの特徴で、フアン・マヌエルの持続時間はかなり長く、私の場合は、朝つけた香りが夕方まで残っている場合がほとんどでした。
他の香りが前に出てくることはなく、真紅のバラがすっと遠くに去っていくようなラストです。(フエギアではラストノートとは呼びませんが)
ピンクペッパーが役割を担うことが多い華やかな表現と、ヌケのある透明感も最後まで続いていました。
明かされていない合成香料の何かだとしても、ここまで透明感を持続させることができるとはスゴいです。
夜遅くになると、フエギアの作品に共有して感じられるフエギア独特のベースノートのような香りが強くなり、その中にローズの香りがある、という印象でした。
フアン・マヌエルの持続時間と付け直しは必要?
フアン・マヌエルに関して言うと、付け直しはほぼ必要ないと思います。
また、香りの変化も小さい方なので、より強く香りを感じたい時はそのまま重ねてもきれいに香ります。
敢えて、フエギアでフアン・マヌエルを選ぶ理由
個性的な作品であふれるフエギアで、あえてフアン・マヌエルを選ぶ理由は一体何でしょうか。
理由は2つです。
ローズ好きこそ選んで
1つ目は、ローズの香りが好きだけれど、他人とかぶらない香りを探している人にほど選んでほしい、というものです。
フアン・マヌエルはありきたりでないローズで、フエギアらしさも感じられます。
どのメゾンにも最低1つはローズの香りがあり、名香と呼ばれる作品も古今東西で数しれないほどあります。
言い換えるなら、ローズを嗅げばそのメゾンの個性がわかります。
私がフエギアから感じるのはナチュラルさであり、洗練された世界観の中にある自然の植物の荒々しいエネルギーを実感します。
ジュリアンの技術とセンスによる洗練と、植物が持つ素朴なエネルギー。
フアン・マヌエルには、洗練と素朴の相反する局面が感じられます。
大きなスタートを切る時に選んでみては
もう1つの理由は、マインドセットをしたい時、自分の気持ちを基本に立ち返らせたい時にフアン・マヌエルを選びたくなりそうです。
また、仕事で昇進した時や、大きな仕事を任された時、資格試験に合格した時など、成長を実感できる何かの節目にもふさわしいと思います。
いま、私はサイトを再開し始めたところで、大きなエネルギーを必要としています。
だからこそ、フアン・マヌエルにいま再び惹かれているのかもしれません。
フアン・マヌエルはどんな人に似合う?
フエギアの香りは性差ではなく、まとう人の好みに寄り添うメゾン。
ローズは女性向けという考えも、かんたんに覆してくれる作品です。
フアン・マヌエルは、女性だけでなく、男性にも堂々とおすすめしたいローズの香りです。
体温が女性よりも高い男性がまとった時、男性ならではの華やかさをもって香らせることができるでしょう。
女性がまとえば、上品で凛とした雰囲気に仕上がると思います。
可愛らしいイメージではなく、強い自立した女性のイメージです。
フアン・マヌエルの香りのイメージとなった人物「フアン・マヌエル・デ・ロサス」とは
フエギアの作品は、いくつかのテーマに沿ってカテゴライズされています。
中でも、フアン・マヌエルは人物をモチーフにしたグループに位置しており、作品は「フアン・マヌエル・デ・ロサス」という実在の人物がモチーフとなっています。
フアン・マヌエル・デ・ロサスは、アルゼンチンにおける歴史的な政治家、軍人であり、「独裁者」、「南米のネロ」と呼ばれることもあるとか。
アルゼンチンではとても有名な、歴史上の人物なのだそうです。
フアン・マヌエルに関するジュリアン・ベデルのこぼれ話
私がフエギアのスタッフさんから伺ったお話しでは、「(調香師でメゾン創設者の)ジュリアン・ベデルが洒落で作ったのではないか」ということでした。
というのも、フアン・マヌエル・デ・ロサスのロサス、とは、スペイン語でローズ(バラ)の意味を持つ言葉だからではないか、だそうです。
フアン・マヌエルのバージョンについて
フアン・マヌエルはフエギアが日本に上陸した当初からラインナップされている作品の一つです。
2020年8月現在、フアン・マヌエルは以下の3バリエーションが展開しています。
- パルファン(いわゆる賦香率が最も高い真の意味での「香水」にあたるもの)
- プーラエッセンシア(アルコール成分を取り除いたより濃厚な香水で、スプレータイプではなく、肌に直接伸ばしてまとわせるもの)
- スキン&テキスタイル(肌にも布類にも使えるファブリックミストのようなもの)
上陸当初はオードパルファム版が、その少し後でオードトワレ版が並行して扱われていました。
また、同じパフュームでもロットナンバーによって香りが微妙に異なります。
天然由来の原料を用いているため、同じ調香でも微細な違いが出るのだそうです。
フアン・マヌエルの嗅ぎ比べ
私はオードパルファムからパフュームに切り替わる際、嗅ぎ比べをしました。
それ以前にもオードパルファムが新たなロットで入荷するたび、店頭でテスターをお試しさせていただいていましたが、やはりロットによって少しずつ香りが異なりました。
日本に最初に入ってきたオードパルファム版が最もパワフルで、どこか素朴な魅力がありました。ピンクペッパーの勢いが最も強かったのも、最初のオードパルファム版だと感じています。
その後はより洗練されてゆき、さらに、香水としての完成度が増してゆくように感じました。
香りやインパクトが弱くなったという意味ではなく、余計な要素が削ぎ落とされ、完成されていくといったイメージです。
これからもフアン・マヌエルの行く末を見守り、ストックがなくなったらまた購入したいですし、何よりこれからも一緒に過ごしていきたい香りの一つです。
フアン・マヌエルが気になる方におすすめ!個性的なローズの香水・厳選2点
フアン・マヌエルが気になる方にご紹介したいローズ香水は、そう多くありません。
従来のローズを主役にしたフレグランスとは異なった、ひときわ輝く個性が感じられるけれど、やはりローズがメインで…という視点で探してみました。
フレデリック マル ユヌ ローズ オードパルファム Frederic Malle Une Rose
フレデリック マルのユヌローズは、ローズに赤ワインを合わせた「大人のローズ」の世界観を描き出しています。
フアン・マヌエル同様に、ユヌローズも真紅のバラをイメージさせます。
トリュフの香りが入っており、これがちょっとクセになりそうなアクセントを与えています。
いかにもワインを嗅いでいる、といった風情はありませんが、ワインが好きな方にはとても楽しめる作品だと思います。
色々な香りを発見できる楽しみは、まさにワインです。それも赤ワインをイメージさせます。
真紅のローズと赤ワインという大人の組合わせですが、不思議とエロチックな雰囲気は感じません。
これから夜遊びに繰り出すぞ!という俗な感じはしないのですよね。
ユヌ ローズをまとうと、おしゃれ感度が高く、人生を楽しんでいる大人に一歩近づけるような気がします。
バレード ローズノワール オードパルファム
バレードのローズノワールは、ノワールと謳いながらもそれほど暗い雰囲気はありません。むしろ、突き抜けた明るさやカリスマ性を感じます。
このカリスマ性は、フアン・マヌエルと通ずるものがあると思います。
いわゆるゴシック調の人を寄せ付けないイメージとは程遠く、バイレードらしいスタイリッシュさで攻めた、感度の高い作品です。
それなのに、バイレードをまとっているという独特の高揚感を感じます。
ローズの他、オークモスの香りも強く感じますが、シプレー系に入るほどではないと思います。
ローズが落ち着いた後のラストノートでは、私の肌ではオークモスとムスクが4:6くらいに感じました。
バイレードでローズ、というと、ローズオブノーマンズランドのほうが有名でわかりやすく、万人受けがする香りだと思います。
ローズノワールのほうが先に出ていますが、マイナーです。それゆえ他の人とも被りにくいはずです。
ローズノワールは香りもより複雑なので、まとう人によって香りの現れ方も異なるように感じます。