夏を迎える頃に街を歩くと、決まって、人びとのフレグランスが夏向きになったことに気が付きます。
衣類やメイクのように、シーズンに合わせて、フレグランスも着替える人が増えているんですね。
今回は、夏を前に知っておきたくなる香調の一つ、アクアノート、アクア系と呼ばれるジャンルをご紹介します。
アクアノート、アクア系って?
アクアノートという明確なジャンルは、もともとあったわけではありません。
80年代後半以降、合成香料が進化したことで、香水の世界は大きく躍進しました。
新たに生まれた新素材(ニューケミカル)を使うことで、自然界に香りが存在しないものさえも、香りで表現することが可能となったのです。
水、つまりアクアノートと呼びならわされているものも、水そのものの香りではありませんよね。
水は、自然の中では、それそのものに香りがないものの一つです。
本来の水は無臭にも関わらず、水のような透明感、清流のような清涼感、といった具合に、水がもたらす想像上のイメージを乗せた、いくつもの作品が生まれ愛されています。
こうした水のイメージ、水を表現した作品の総称として、アクアノート、あるいはアクア系と呼ばれているのです。
90年代にマリンノートとともに爆発的な流行を経たアクアノートは、2000年代を越えてもフレグランス界に残り、2017年現在では、ひとつの系統として定着していますよね。
アクアノートの香りはどんな香り?
アクアノートの香りは、カロン(キャローンとも)という合成香料を用いることで透明感のある水の雰囲気を表現しています。
そんなアクアノートの香りはスイカやメロンのような香りを思わせることから、瓜系と表現されることもあります。
時々、キュウリ系という人もいます(笑)
これがアクア系かな?と嗅ぎ分けるとしたら、濁りのない透明感のある香りです。
私は、暑い夏に冷たい水をゴクゴクと飲んだ時に舌の上で感じるほんのりとした甘さをイメージしています。
アクア系、アクア調と呼ばれる香りの中では、より水のイメージを引き立てるために、シトラスやグリーン系の香調とミックスした作品が人気を集めています。
ちなみにカロンを用いているのは、海をイメージしたマリンノートも同様です。
こういったアクア系の香りは、合成香料を効果的に使って表現されたものがほとんどです。
調香によって、天然香料を含む他の香料とブレンドされているため、香りの境目があいまいで、何の香りなのかよくわからないこともあります。
マリンノートとアクアノートの違い
マリンノートも、水という意味では広義のアクア系と言えます。
この香料が入っているから、こっちはアクア系としなければならない!という厳然としたルールがあるわけではないので、評者やその解釈によって、分類の仕方は少しずつ異なっています。
一部のマリンノート系作品の中には、明確に「海水」(シーウォーター)を意図して調香する場合もあります。
塩気を感じさせることで、海の水っぽさを表現するのですね。
シーウォーターを用いた作品として、セルジュ・ルタンス ローフォアッド(L’Eau Froide)が挙げられます。
マリンノートとアクアノートの定義
このブログの中では、水の表現がシーウォーターの香り(海水)なのか、モチーフの主体が「海」なのか、で区別しています。
水全般がテーマとなっているものをアクアノートとして、はっきりと海がテーマとなっているものをマリンノートとして紹介しているというわけです。
アクアノート、アクア系は進化している
90年代に大ヒットしたアクアノート。
マリン系の代表作品、ウルトラマリンのように、ちょっと嗅いだだけでマリン系、アクア系とわかってしまうような作品づくりの時代は終わり、2010年代には新潮流へと移り変わっています。
最近は、スキンフレグランスとも呼ばれる新ジャンルの支持が高まっているのです。
これは、香りをまとっているようでいて、あからさまに香らせるわけでもない、静かな香り方を楽しむ新ジャンルです。
特定のノート、香調を示すのではなく、常に身につけていられる心地良いインナーウェアのようなフレグランス作品全般を指しています。
自己主張のための香りではなく、自分や、自分のごく近くにいる人が快適に過ごすための香らせ方として、フレグランスラバーの間では、ちょっとしたブームになっているのです。(あるいは、ブームの予兆、といった初動段階かも・・・)
この中のひとつの潮流として、進化系のアクアノートがいくつか見られるようになっており、私はひそかに注目しているのです。
アクアノート、アクア系のオススメフレグランス
ダビドフ クールウォーターウーマン Cool Water Davidoff for women
メンズ版のクールウォーターの大ヒットを経て、満を持して登場した女性版クールウォーター。
メロンや睡蓮をメインに、レモンやパイナップル、マルメロといったフルーティーな要素も入った透明感に溢れた作品です。
さわやかでありながらスースーするイメージではなく、時間が経つにつれて肌に馴染んで優しい香りに変化していきます。
香りも濃厚ではなくクリアーな印象で、まさに暑い時期にピッタリです。
夏の暑さに負けない、強くしなやかな女性像をイメージさせてくれそうです。
ローパ ケンゾー オーデトワレ(レディース) L’Eau par Kenzo EAU DE TOILETTE POUR FEMME
男性用フレグランスとペアになっている、ケンゾーのロー。今回はレディース版を紹介します。
パッケージに描かれた睡蓮の甘く上品な香りをヒロインに仕立て、ライラックやバイオレット(スミレ)といった、青味を感じるお花と合わせた知的で洗練された香りです。
アクア系として有名なメンズ版よりも柔らかく香るため、いかにもアクア系をつけています、といった雰囲気にはなりにくいところもポイントです。
メロン、瓜のような香りでさりげなく香らせたい…そんな方におすすめです。ダビドフのクールウォーターと比べると、青みのあるお花のフローラルノートが感じられると思います。
イッセイ ミヤケ ロードゥ イッセイ オードトワレ(レディース) L’eau d’Issey Issey Miyake
アクア系といえば、イッセイ ミヤケ。
男性向けの「オム」のイメージが強いイッセイ ミヤケですが、実はレディース向けのアクア系作品も作っているんですよ。
アクア系とフローラル系を出会わせており、フェミニンなアクアノートです。
アクアノートに加えて、ロータス(蓮の花)、ユリ、スズラン、ピオニーやローズといった清楚なお花を束ねたフローラルブーケの香調となっています。
透明感のある香りは好きだけれど、男性用香水っぽくなりたくない方には是非オススメ。
こちらはケンゾーの青みのあるフローラル系より、ホワイトフローラル寄りです。
メゾン フランシス クルジャン アクア ユニヴェルサリス Aqua Universalis
メゾンフランシスクルジャンのアクアユニヴェルサリスは、水を表現した新しいスタンダードと言える作品です。
ベルガモットやレモンといったシトラス系に、スズランの香りが凛としてブレンドされており、清潔感を感じます。後半はまとった人の肌にやわらかく馴染んでゆきます。
アクア系ではなく、シトラスやムスクを用いて水を表現したところが新しく、またそれが大ヒットに。クルジャンのアクアシリーズの中でも有名な作品のひとつとなっているのです。
まとう人の肌の匂いに混じり、いつのまにか自分の香りとなっている・・・そんな心地よさを感じる上質なフレグランスです。
メゾンフレグランスで水を表現した香りを求めるなら、まずはこのアクアユニヴェルサリスをおすすめします。
セルジュ・ルタンス ローセルジュルタンス(セルジュ・ルタンスの水) L’Eau Serge Lutens
クルジャン同様に、ルタンスからも水を表現するシリーズが登場しています。
ローセルジュルタンスは、ルタンスのロー(l’eau、フランス語で水の意味)シリーズのさきがけでもあります。
私の想像ですが、このローセルジュルタンスが好評だったため、シリーズ化したのではないか?と思われます。
ローセルジュルタンスでルタンスが提案したのは、盛りすぎたフレグランス文化への警鐘、香水の引き算でした。
ジューシーなシトラスとミント、そしてマグノリアの芳醇な香りに加え、カロンではなくアルデハイドを用いています。
このため、厳密に言うとアクア系ではなく、フローラル系に分類されることも多々あります。
当サイトでは、水をモチーフにした香りの一つとして、ローセルジュルタンスをこのページでご紹介しています。
クールでフレッシュながらも、肌に寄り添い、香り疲れのしない作品です。
こちらも文句なしにおすすめのアクア系フレグランスです。
メゾンフレグランスがお好きな方なら、アクアユニヴェルサリスと比較してみると、よりお好みに近づけますよ。
ローセルジュルタンスのほうがやや陰のある、アーティスティックな印象です。
アナ スイ シークレットウィッシュ オードトワレ
レモンとパイナップル、そしてメロンが印象的なシークレットウィッシュ。
アクア系というよりも、どちらかというとシトラスフルーティーとして扱われることが多いのですが、メロンの香りが引き立っており、アクア系(瓜系)を探している方にはぜひご紹介したいなと思いました。
甘い香りが多いアナスイの中では珍しく、さわやかな作品となっています。
ボトルのキャップにちょこんと座った妖精も素敵です。