よく耳にする、フローラルというジャンル。
香水なんて、ほとんどがお花の香りと流している方も、多いのではないでしょうか。
今回は、そんなフローラルの香調について掘り下げていきます。
フローラルの香調って?
フローラルは、その名の通り、お花の香りの香調です。
中でも、特にポピュラーなバラの花や、ジャスミン、スミレやユリなど、日本でも身近な花の香りからなる香水が、世界中にたくさんあります。
その香りの元となる、花。
花とひとくくりにしても、世界中で花が咲く植物は20万種類にも及ぶと言われています。
20万種類をフローラルというひとくくりでまとめてしまうのは、なんとも荒っぽいやり方ですよね。
一般に植物は、ほとんどが花のちがいで種類を決めています。したがって、花の種類というのは、花のさく植物の種類と同じ数になります。
花のさく植物は、世界中で約20万種ありますから、花の種類も約20万種と考えていいでしょう。
出典:学研サイエンスキッズ
花の中には、香りがない花もありますが、単に「花の香り」と聞いて、一緒くたにはできないことがお分かりいただけると思います。
そんな香りがある花々の中から、調香師は香りを選び、ほかの香料と併せる調香を行い、作品となる香りを作っていきます。
シングルフローラル
調香師が意図的に、特定のお花の香りを引き立てるように調香した場合は「シングルフローラル」と呼びます。
そのお花の香りを純粋に楽しめる、可憐でシンプルな香調です。
シングルフローラルで作られた作品は意外にも少ないものです。フローラルに類する大概の作品は、複数の花々を束ねたブーケとして完成されており、シングルフローラルの作品は稀有であると言えます。
クリスチャン・ディオールの「Diorissimo(ディオリッシモ)」は、ミュゲ(スズラン)を表現した、名高い香水です。
クリスチャン・ディオール ディオリッシモ Diorissimo
スズランの青々とした香りが可憐なディオリッシモ。
ローズでもジャスミンでもなく、スズランにフォーカスを当てたマニアックな作品であり、名香の一つです。その凛とした美しさに、誰もが心奪われるはず。
フローラルブーケ
色々な花の香りを調香したものは、「フローラルブーケ」と呼ばれ、シングルフローラルと区別されます。
その名の通り、たくさんの種類のお花で作った、花束を抱いているイメージが想像でき、華やかですね。
このタイプの香水は、非常に種類が豊富なことでも知られています。
また、調光するお花の種類が多いため、複雑な香りになることが多いようです。具体的なお花の名前やイメージに限定されず、作品の新しいイメージや調香師の理想像を表現するため、あえて複雑な調香とする場合も見受けられます。
ここが、シングルフローラルとの大きな違いだと思います。
実際のお花の香りにより近づける調香とするか、調香師の理想的なイメージを表現するための調香とするか、の違いです。
これはどちらか優れている、ですとか、素材が良い、という意味ではありません。好みの問題です。
私がフローラルブーケの代表作として紹介したいのは、ジョイという作品です。
天然香料を贅沢に使うことで高名なジャン・パトゥの「JOY(ジョイ)」は、ローズとジャスミンを使った、フローラルブーケの代表作です。
ジャン・パトゥ ジョイ JOY
本物のお花の香りを感じたいのなら、ジャン・パトゥのジョイがおすすめ。
色々な香水を楽しんだ後にまた戻ってきた場合にも、常にピュアな感覚を思い起こさせてくれる香水の一つです。
とはいえ、つけたての瞬間から香りが消える最後の瞬間まで、一貫したクラシカルな印象を持つ人も少なくないはずです(若い方にとっては苦手な香りかもしれません)
トレンドに左右されない名香として楽しんでみてほしいです。
今回、使いやすさを考慮してオードパルファム版を以下に紹介していますが、この他にオードトワレ版と香水版があります。
よりこの作品の世界を堪能したいなら、間違いなく香水版(パルファム)を手にとっていただきたいのですが…やはりパルファムということでかなりの高額になることと、使うべきシーンを選びます。
使い勝手の良さと香りのふくよかさを総合的に判断して、私はオードパルファム版をおすすめします。
ホワイトフローラル
同じ花の香りでも、ローズやピオニー(芍薬)など、花弁に色が付いたお花の香りと、白い花の香りは、まるで異なりますよね。
ジャスミンやユリ、チュベローズといった、花弁の色が白い花の香りを「ホワイトフローラル」と区別して表記することもあります。
清楚さと女性らしさを併せ持った、上品なイメージの香調です。
おすすめ作品がありすぎて迷いますが、このカテゴリではラルチザンパフューム「ちょうちょをつかまえて」(LA CHASSE AUX PAPILLONS EXTREME シャッセ オ パピオン エクストリーム)をイチオシとしてご紹介します。
フローラルグリーン
お花の香りに、草の青さや、緑の葉を思わせる「グリーン」の香調をブレンドすると、フレッシュな印象の「フローラルグリーン」と呼ばれます。
ちなみに、ハーブや青リンゴの香りも広い意味でのグリーン系に加えられることがあります。中性的でキリッとしたものや、よりナチュラルさを強調するタイプが多く見られます。
お花を使った香りの中でも、グリーンの青さが加わることで清潔感のある印象が増します。このため、日本では嫌厭されがちなセクシーすぎるイメージを抑えることもできるのです。
ボーイッシュなスタイルが好きな方や、さっぱりしたい時にも使える香調です。
日本では特に人気があるジャンルです。またこのカテゴリの作品は、大きな失敗が少ないものが多いと思います。
シャネル No.19 ナンバーナインティーン 19番
シャネルの19番目の香り…ではありません。
シャネル No.19 ナンバーナインティーン 19番(香水)
ココ・シャネル自らが「強い個性を放つ香りを」とオーダーして生まれた、彼女の誕生日(8月19日)にちなんだ作品です。
周囲の人々は、すでに評判が高かったNo.5と比べ、これに並ぶ香りなどないと猛反対したのだとか。
アイリスとネロリという、しっとりしたフローラルを支えるグリーンとウッディノートが知的で芯の強い女性像をイメージさせます。
グッチ エンヴィ ENVY
90年代〜2000年代前半に大人気を博したグッチのエンヴィ。
今では廃盤となってしまい、入手が困難となってしまいました。
フローラルでありながらさわやか。グリーンすぎずフェミニン。絶妙なバランス感のフレグランスでした。探している方はお早めに。
フローラルアルデハイドノート
これらお花の香調に、よく合う香調がアルデハイドノート。
合成香料のアルデヒド(アルデハイド)を加えると、人肌のぬくもりや、セクシーさを感じさせる「フローラルアルデハイドノート」と呼ばれます。
この香調の代表作は、1922年に発売され、当時の香水業界だけではなく、世の中全体にとっても革命的な存在だったと言われるシャネルの「NO.5」です。
また、石鹸の香りにも、フローラルにアルデヒドが加わったものが多くありますので、日本人にとっても身近な香調といえるでしょう。
No.5の後にはアルデハイドが加わったフローラルの香りが定番となり、似ている作品も数多く存在しています。
シャネル ナンバーファイブ No.5
香水好きでなくとも知っている名香、シャネルの5番。
1921年に誕生した香水(パルファム版)から時を経て、1986年にオードパルファム版が誕生しました。
さらに、近年のトレンド、特に若い世代向けに合わせた新しい解釈として、「No.5 ロー」が生まれています。
その時代のトレンドやTPOに合わせてまとえるよう正確に計算されており、どのバージョンも美しく甲乙つけがたいものとなっています。
最も完成されているのはオリジナル版(香水)であることに違いはありませんが…
使い方やシチュエーションも含めて、まとう人を成長させてくれる作品だと思います。
フローラルフルーティノート
お花の香りに、果実の香りを加えた「フローラルフルーティノート」は、現代の日本人にも親しみやすいタイプです。
トップノート(付けたての時の香り)にフルーティ系の素材を加えることで、みずみずしさを演出したり、果実を頬張った時のような甘さを感じさせることができます。
また、香水だけではなく、柔軟剤やボディソープなどの身近なフレグランス製品の中にも、お花と果実のイイトコどりをしたこのタイプの製品がたくさん発売されています。
このジャンルも日本では人気が高く、トレンドに合わせて多数の作品が生まれています。
イヴ・サンローラン ベビードール BABY DOLL
甘すぎずキュートな印象のベビードール。男性ウケもよく人気の作品でしたが、残念ながら現在は廃盤となっています。
ランコム ミ・ラ・ク miracle
恋の予感や、新しい物事を始める時の高揚感を感じさせるミラク。
トップノートのライチがジューシーで、春から夏にかけての季節にもよく合う香りです。
まとめ
このように、お花の香りは、花の種類が多様なように、香調の種類も豊富です。
お花の香りだけでは作品として成立しないため、様々な香料素材と併せて調香され、フローラル以外の特徴が強く出ている作品も多いものです。
フローラルグリーンノート、フローラルフルーティーノートは初心者の方でも使いやすく、トレンドに合った作品も多数存在するジャンルです。
ファッションやメイクに合わせた香り選びを楽しみたい方にもおすすめです。
シングルフローラルや、シャネルやジャン・パトゥなどのいわゆる名香と呼ばれる作品は、香りの特徴が強く出ています。
特に名香と呼ばれる作品については、香水に自分を合わせるようにしてまとい、楽しんでみてほしいです。